レビュー01「建築のすすめ」山口陽登

2015年3月2日
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「建築のすすめ」レビュー

開催日:2014年12月6日
ゲスト:山口陽登
執筆者:廣瀬卓司


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そもそも『ケンペケ』って何?

ケンペケとは、鹿児島在住の建築文化に関心のある若手有志(社会人+学生)によって立ち上げられたレクチャーイベント。名称は「建築XX」(ケンチクペケペケ)という造語を略したもので、レクチャーしてくれるゲストごとに、毎回異なるテーマ「XX」を設定することに由来する。ゲスト→参加者への一方通行ではなく会場全体でそのテーマについて考え、参加者全員が主体的に交流すること、を第一の目的としているイベントである。

ケンペケの起こり

現在、鹿児島では、建築についての講演会やイベントが少なく学生や若い世代が交流できる場がほとんどない。もちろん建築について議論できるような文化も育っておらず、実務をこなしている社会人ですら、建築を言葉にすることに抵抗を感じているのではないかと感じている(発起人の一人であるわたしも含めですが)。
気軽に建築を語れる場を継続的に開催することで、そのアレルギーを払拭していければ、もっと鹿児島の建築は楽しくなると感じている。

ケンペケが目指すもの

ケンペケは楽しい場所であり続け、建築をキーワードにそれぞれの持つ個性が緩やかにつながり広がっていける輪郭のない集団、得体のしれない場所であるが、ちょっと覗いてみたいなと感じさせるような場所でありたいと考える。

ケンペケの掲げる理念は以下の通り

建築について議論し、互いに理解を深められる交流の場をつくりたい。

メディアを通しての知識の集積だけではなく
一歩踏み出し、手を伸ばせば触れられる
生の声を聞くことができる場所

『ケンペケ』は、鹿児島の建築人が、ヒトをマチをケンチクをより身近に、
自分の事として考えるきっかけになりたいと考えている。

さて、本題をレクチャーに戻す。
記念すべき『ケンペケ』第1回目のイベントは、「建築のすすめ」と題し、2010-2011年に関西発の歴史あるレクチャーシリーズ「アーキフォーラム」でコーディネーターを務めた建築家・山口陽登氏をゲストに迎えて開催された。
(ゲストプロフィールは、下記リンク先のsiinariホームページ参照)

建築家・山口氏のスタンス

山口氏のレクチャーは、「鹿児島に鹿児島ならではの建築のムーブメントを」という激励のコメントからスタート。次に、山口氏が興味を持ち、常に考えているという「環境」というキーワードが紹介された。氏は建築家として、「あたりまえのこと=環境」と捉えているという。その視点から空間を設計する上で何を考えているかが、これまで関わった個々のプロジェクトを通して解説されていく。

環境を語る上で、象徴的な言葉として紹介されたコトバは以下の通り
・環境とは“私以外のすべてのもの”それに対して宇宙とは“私を含む全てのもの” 環境と宇宙とのたった一つの違いは“私”…観察し、行動し、考え、愛し、楽しむ、私。(バックミンスター・フラー)
・環境は僕たちのまわりにつねに=すでにあって構築したり否定したりすべくもないすべてのもの(青井哲人)

この時点では、「環境」というコトバの曖昧さから、これから山口氏の語る「建築」とどう結びついていくのかその焦点が絞れずにいた。

空間が揺れ、可視化されるもの

最初に紹介された、風を使ったインスタレーション作品『FUSEN1』『FUSEN2』。
外部に設置された風船が風で動くことにより、内部に吊り下げられた糸を揺らす。
普段意識の外側にある風がカタチや動きを変えて別のものへ変換されることで、新たな出会いや組み合わせが生まれる。(下記リンク先の動画参照)
・FUSEN1
https://www.youtube.com/watch?v=sqikvwH_FCQ
・FUSEN2
https://www.youtube.com/watch?v=YDrmr4_e4fo

この2作品は、環境を考えることで空間はより面白くなるのではないかと予感させる、このレクチャーを象徴するものであった。
糸/ふうせん/風/重力、といった、あたりまえに存在するものが可視化され、その組み合わせから偶発的に生み出される動きに(山口氏は「空間が揺れる」と表現していたが)、参加者は、建築の可能性を感じたのではないかと思う。

あたりまえのことから建築をつくる

山口氏は、レクチャーの中で環境についてこう説明している。
「環境とは反転可能で明確なカタチのない概念」
「意識の外側にある環境を意識の内側におくことで作品を考える」

「環境」は我々にとって、あたりまえに存在するものであり、意識することが難しい。しかし、その意識/無意識の領域を越境=横断し連続させることで、初めて我々はあたりまえが「あたりまえのこと」ではないことに気付く。
環境とそれ以外の私、という反転可能な関係を、見る角度や立場を変え、鋭い観察眼、洞察力をもって掘り下げる。そうすることで意識の外側にあった環境が見え始め、フラーの言う宇宙(=環境+私)の広さを知覚できる(のではないだろうか)。

建築には、その周辺環境を変えていく力がある。そして創りだされた環境もまた反転可能である。
そう考えると建築家には、共存・共生のための順応性、社会的な建築バランスのようなものが不可欠だと気付かされる。箱をつくるだけではなく、状況を俯瞰し、その背景や周辺領域を読み解くような力が求められていることを改めて実感する。

「あたりまえのことから建築をつくる」ことは、オーギュスタンベルグの提示した「造景」の概念にも似ているように思う。

「造景の時代の人間は自身の主観性と事物の現実との関係を意識的に調和させ、したがって環境に向けた自身の視点を客体化することで風景を管理できるようになる」『日本の風景・西欧の景観 そして造景の時代』より

つまり建築をつくることは、主観と客観(繰り返しとなるが、互いに反転可能で、あたりまえに存在するもの)とを互いに意識させる行為であり、既に存在する環境(あたりまえのこと)をあぶり出す行為(建築)は、造景であると言えるのではないか。

あたりまえに存在する光/影/風/音/匂い、建築を構成する要素である形状/素材/色彩/質感、そしてその場で生活する人々。その関係性をより深くまで読み取り、意識的に連続させることがより豊かな環境をカタチ創るように思う。

鹿児島のあたりまえを考える

「前の世代が確立してきた環境の息苦しさみたいなものを僕ら世代が突破したい」
「おもしろいものを創りたい」
レクチャー終盤に、建築環境を考える上で、環境性、経済性、安全性、社会性などあらゆる要素において数値化される設計手法について触れる場面があった。

山口氏の学生時代の恩師でもあるサスティナブルデザインを代表する建築家:難波和彦やその同世代の建築家である野沢正光等の自然環境への取り組みに敬意を払った上で、自分たち若い世代が次の段階で提示できることは何かという問い掛けであった思う。その答えとして氏は、「前の世代が提示したものをおもしろくするために、あえて前にもどる。」と表現していた。
先進的な建築技術に限定された解決策に頼るのでなく、誰もが知っているあたりまえのこと=環境全体でその解決策を考えることが、より人間的でおもしろいものに近づけるのではないかということなのだろうか。
このコトバを聞きながら、鹿児島においてもすでに存在する環境を見つめ直すことで、鹿児島のこれからの建築を考えるヒントが見つかるのではないかと考える。
鹿児島には、数値化できない温かさ、気持ちよさ、生き生きとした環境がまだまだ隠れている。鹿児島から日本や世界を考えることやその反対。俯瞰することや顕微鏡で覗きこむように見つめ直すことが、これからの鹿児島の建築を、その環境をおもしろくしていくのではないかと。

最後に

ケンペケは、始動したばかりでまだまだ運営上の課題も山積みであるが、この活動が学生を巻き込み、さらに大きな動きとなっていくことを望む。
そして、鹿児島にも誰とでも建築の魅力を語り合える場が増え、鹿児島の建築人が、ヒトを、マチを、ケンチクを、より身近に、自分の事として考えるきっかけになることを期待する。


20141206ケンペケ01「建築のすすめ」山口陽登 – YouTube

【ゲストプロフィール】
山口陽登/Akito Yamaguchi
建築家/architect

siinari一級建築士事務所 主宰

+略 歴:
1980   大阪生まれ
2003   大阪市立大学工学部建築学科卒業
2005   同大学大学院修士課程修了
2005-   株式会社日本設計(2013年まで)
2009-   大阪市立大学非常勤講師
2010   13th archiforum in OSAKA コーディネーター
2013-   siinari一級建築士事務所 主宰
2013   CCA北九州リサーチプログラム

+受 賞:
2014   SDレヴュー2014 鹿島賞
2011   JCDデザインアワード 入選(新歌舞伎座/日本設計にて担当)
2011   ディスプレイデザイン賞 入選(上本町YUFURA/日本設計にて担当)
2011   SDA賞 入選(上本町YUFURA/日本設計にて担当)
2010   建築九州賞 作品賞(済生会長崎病院/日本設計にて担当)
2004   省エネルギー住宅設計コンペ 最優秀賞
2003   ECOWILLハウスコンペティション 優秀賞
2003   三菱総合研究所 次世代住まいアイデアコンペティション2003 優秀賞
2003   TEPCOインターカレッジデザイン選手権 佳作
2003   JIA東海支部建築設計競技 銅賞
2003   大阪市立大学卒業設計賞 最優秀賞

【執筆者プロフィール】
廣瀬 卓司/Takashi Hirose
1977    鹿児島県種子島生まれ
2002    鹿児島大学建築学科卒業
2002-2007  株式会社高松伸建築設計事務所
2007-2013  関西~沖縄の設計事務所に勤務
現在    株式会社プラスディー設計室在籍
      iwaidasan主宰

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