建築のデフレッペチーノ
開催日:2016年8月27日
ゲスト:亀崎義仁(カメアトリエ)
執筆者:小林由莉香
2016年8月27日に開催された6回目のケンペケ「建築のデフレッペチーノ」。
ゲストは鹿児島出身、沖縄で「使いやすく愛嬌のある建築づくり」をモットーに活動するカメアトリエの亀崎さん。デフレ世代のアーキテクトとして日々感じること、考えることをはじめとして、「デフレッペチーノ」とはどんな飲み物かということまで、幅広い話と熱い議論が繰り広げられた夜となった。「デフレッペチーノ」という言葉は、ちょうどタイトルを考えていたときの場所がスタバだったことから名付けられたそうだ。
デフレッペチーノについて考えを巡らせているうちに、あっという間に時間が過ぎ、レビューが遅くなり大変申し訳ない。
対話の中で浮かんできたいくつかの気になるキーワードについて考察してみる。
◯◯世代
日本ではその時の社会情勢や特徴を表す○○世代という呼び方が存在する。戦後の焼け跡世代にはじまり、団塊、しらけ、団塊Jr、デフレ、ゆとり、さとり、つくし、と分け方・名称に諸説あるが、誰もがその各世代名に属する。今回のテーマでもあるデフレ世代は1970年から1982年に生まれ、超氷河期時代に就活を迎えた世代。安定した職に就くことは難しく、会社は頼りにならないということを早くから悟っており、生き残りのために個性やスキルを磨く。成功して一旗上げるということよりも、まずまずのラインをクリアし、ほどほど感で満足するという傾向があるとのことだ。
ちなみに私は87年生まれのゆとり世代。2002年度に行われた学習指導要領による「ゆとり教育」を受けた世代で、情報化社会の成長時期とともに育った故、携帯などの通信機器が手放せない。情報収集&選択能力は高いが、冒険心には乏しい内向き型という傾向があるらしい。
「デフレマインドからの脱却」というフレーズはアベノミクス時によく耳にしていた。脱却した先に何があるのか。物心ついた頃から不況の日本しか知らない”デフレ当たりまえ世代”からすると、その先は未知だ。じぶんの生きてきた時代が不景気だったとは振り返ってみても感じないし、2017年の今でもデフレは現在進行形だが、この先の未来も明るいと思っている。
沖縄
この日は亀崎さんがゲストということで、沖縄ナイトと称し、会場を提供してくれた児玉家の奥様が美味しい沖縄料理をたくさんつくってくれた。島豆腐の肉巻き、もういちど食べたいなぁ。
沖縄は私の故郷でもある。29年生きてきた中の大半は沖縄で過ごしてきた。青い海、どこまでも続く空、豊かな色彩、陽気な人柄、オリジナルの文化、年間780万人が訪れる日本屈指の観光地でもある。その一方、「普天間」「辺野古」「オスプレイ」といった言葉とともに、たびたびニュースや新聞で話題になる米軍基地問題。周りに住宅地が密集し、世界一危険な基地と言われている。
高校を卒業して東京の大学に進学した。大学の友人からは「沖縄出身?いいな〜」といったリアクションとともに、「基地ってどうなの?」ということもときどき聞かれた。私は生まれたときから基地がある”基地あたりまえ世代”だ。幼い頃からブルーシールアイスを食べ、放課後はA&Wにたまり、基地のフェスに友人たちと繰り出した。街中で会うアメリカ人はとてもフレンドリーで、友人の旦那は米軍人で私の友人でもある。基地があり、アメリカ文化があることが普通であり日常だ。報道されている基地と、私の中の基地とでは、別世界だと感じる。この問題に関しては複雑な感情を抱いているので賛成・反対と一概に言えないのが正直なところだ。
数年前の深夜に、那覇軍港についた大きな米軍艦から、大量の荷物を基地に運ぶ為に、米軍車両が国道の片側一車線を潰して、北部に行く行列を見た。とっても静かに、長く長く連なった軍事車両が、粛々と静かに運んでいたあの光景はすごかった。ゾクッとした。共存しているのだとあらためて感じた。
体温
「物語のある建築が好き」と、建築をつくるだけではなく県内各地の建築を鑑賞・分析し、命名する亀崎さん。『造形美確認検査センター』は必見サイトだ。
当時の建築基準法やその時の状況でそうせざるを得なかった、ストーリーのある形や建築にグッとくるという言葉に私も共感する。台風で吹っ飛ばされるたびにコラージュを重ねた外壁トタンは時に美しく、思わず写真を撮ってしまう。内装を剥ぎ取った時に出てくる、当時の大工さんのメモがある躯体壁や、いっそのこと全部塗ってしまえとばかりに、屋根も外壁も小麦粉でまぶしたような白塗装の瓦家。(造形美確認検査センターによりホワイトハウスと命名。)
どれも共通して言えることは、そこに使い手や作り手の個性がにじみ出ていること。見慣れたいつもの景色の中に、数々のストーリー建築が存在している。そのほころびに人の体温を感じ、思いをめぐらせ、共感したり驚いたり、楽しませてくれる。私も建築に携わる一人として「体温」を大切にしていきたい。
余談だが、鹿屋市にある私のアトリエは、当日スライド写真で登場した「角出し(写真1)」「ヤリ出し(写真2)」どちらも兼ね備えている。未来への増築の希望は今や夢の跡。それもまた良し。
(写真1)
(写真2)
バランス
沖縄に馴染みのあるコンクリートブロックに木トラス、「トラストブロック」はカメアトリエが提案する住宅だ。亀崎さんは独立初年、100人に家づくりに関するアンケートを行っている。結果は「自由にするとわかりにくくて不安」というものだった。人は自由になると不安になるらしい。そこで、「わかりやすい家づくり」を掲げ、大枠は決まっているけど自由だよというセミオーダーの住宅が誕生した。沖縄で活動をするデフレアーキテクトの亀崎さんだからこそ生み出されたものだと感じる。
「ほどほど」の自由はデフレマインドを持ち合わせた世代に心地よく、共感されるのだろう。「ほどほど」は沖縄で言うと「いいぐわぁ〜」。いい具合、つまりバランス良しということだ。
デフレッペチーノってどんな飲み物?
デフレの苦みは「ほどほど」といううまみを生み出した。苦みを味わったものだけが到達する味の向こう側には、心地よいうまみが広がっている・・・のかもしれない。
バブル世代の人にとっては苦く、デフレ世代の人は苦いとも感じないのかも。
「◯◯世代」「沖縄」「体温」「バランス」
ここで考察したいくつかのキーワードは私自身を反映するものだ。
「沖縄」育ちの「ゆとり世代」は「体温」と「バランス」を重視する、という仮説が立てられたので、そのペチーノは何味なのか、今後検証していこうと思う。
あなたのペチーノはどんな味?
おわりに
ケンペケを企画してくれたヒロセさん
会場とおいしい料理を提供くださった児玉ご夫妻
ゲストのカメアトリエ亀崎さん
聞き手の田村さん
ご意見番のオノケンさん
参加者の皆様
楽しい夜をありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう!
■20160827ケンペケ06「建築のデフレッペチーノ 第一部」 カメアトリエ亀崎 義仁 – YouTube
■20160827ケンペケ06「建築のデフレッペチーノ 第二部」 カメアトリエ亀崎 義仁 – YouTube
【ゲスト】
亀崎 義仁/YOSHIHITO KAMEZAKI
1979鹿児島県生まれ
【執筆者プロフィール】
小林 由莉香/yurika kobayashi
88 design代表
1987年:沖縄生まれ。太陽とサトウキビ畑に囲まれて育つ。
2016年:鹿児島に移住とともに88 design設立。モットーはパラレルワールド。